この記事は、配偶者の不倫がきっかけで別居している人と、これから別居を考えている人に向けたものです。離婚するかどうかは、まだ決めていなくてかまいません。 先に結論を書きます。夫婦は、資産や収入などの事情を考えて、婚姻から生じる費用を分担する。民法 第 760 条の定めで、この費用を婚姻費用(略して婚費)と呼びます。話し合いで決まらなければ、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てられます。まとまらなければ審判に移る。内容は 2026 年 9 月時点の法令と裁判所・法テラスの案内、当サイトが数えた不倫の相談によります。
別居と婚姻費用の相談 128 件。いちばん多いのは金額と相場のこと
当サイトの集計で、別居と婚姻費用の相談は 128 件でした。いちばん多い悩みは「費用や金額、相場のこと」で、2 番目の「何から、どの順で進めるか」よりはっきり多い。 3 番目から 5 番目(「相手が認めない・応じないとき」「法律のうえでできるのか」「気持ちをどう整理するか」)は、ほぼ同じ件数です。金額の悩みが先に来る。
この話題は、相談を AI で 1 件ずつ判定して確かめた当たりの割合が約 93% で、当サイトが数えた 18 の話題の中でも高いほうです。別居と生活費の話は、書いた人自身の件であることが多いということです。 ただし金額の問いには、婚姻費用の額のほか、弁護士や調停にかかる費用の話も入っていて、この数え方では分けていません。額より先に、額がどう決まるかを知っておくといい。この記事はそこに絞りました。並びは別居と婚姻費用の話題に置いています。
婚姻費用は民法 760 条。別居中の生活費の分担を家庭裁判所に求められる
民法 第 760 条は、夫婦は「その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定めています。 裁判所の家事事件Q&Aは、婚姻費用に入るものとして、衣食住の費用、出産費、医療費、未成熟の子の養育費、教育費、相当の交際費などを挙げる。夫婦が暮らしていくのに要る費用、という考え方です。
同じQ&Aには、相手の不倫で夫婦の仲が悪くなり、子どもを連れて実家に帰ったが、実家の援助だけでは暮らせない、という問いが載っています。答えは、別居中の夫婦の間で生活費の分担の話し合いがまとまらないなら、家庭裁判所に調停を申し立てて分担を求められる、というもの。 別居しても、夫婦は夫婦。生活費の分担を話し合う手続きは、離婚の手続きとは別に用意されています。
民法 第 752 条は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない、とも定めています。婚姻費用は「一切の事情」を考えて分担する、というのが第 760 条の書き方です。別居に至った事情がどう扱われるかは、この記事では判断しません。
婚姻費用の分担請求調停。収入印紙 1,200 円分と、そろえる書類
- 夫婦で話し合う決めたとおりに払われるなら、裁判所の手続きは要らない(家事事件Q&A)
- 調停の申立て話し合いがまとまらない・できないとき。相手の住所地の家庭裁判所か、2 人で決めた家庭裁判所へ
- 調停裁判官 1 人と調停委員 2 人以上の調停委員会が、双方から収入や支出などの事情を聞き、解決案を示す
- 成立合意が調書に書かれると、確定した審判と同じ効力を持つ(第 268 条)
- 不成立なら審判調停を申し立てた時に審判の申立てがあったとみなされ、裁判官が一切の事情を考えて決める(第 272 条 4 項)
裁判所「婚姻費用の分担請求調停」「調停手続一般」「家事事件Q&A」と、家事事件手続法 第 268 条・第 272 条によります。はじめから審判を申し立てる道もあります。何日かかるかは、裁判所の説明に載っていないので書いていません。
裁判所の案内では、申し立てられるのは夫か妻です。申立先は、相手の住所地の家庭裁判所か、2 人が合意で決めた家庭裁判所。費用は収入印紙 1,200 円分と、連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに違うので、申立先の家庭裁判所のページで確かめてください。
| そろえるもの(裁判所の案内) | 中身 |
|---|---|
| 申立書とその写し 1 通 | 書式と記載例は裁判所のページにある |
| 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書) | 夫婦であることを示す書類 |
| 申立人の収入の資料 | 源泉徴収票、給与明細、確定申告書などの写し |
| 事情説明書(婚姻費用分担)と、進行に関する照会回答書 | 事情説明書は、収入・家族・住まい・払っている費用などを書く書式(下の 4 項目)。照会回答書は、調停の進め方についての問いに答える書式 |
| 送達場所等届出書 | 裁判所からの書類を受け取る場所を届ける書式 |
審理に要るときは、ほかの書類を求められることもあります。調停では、調停委員会が夫婦の資産、収入、支出などの事情を双方から聞き、解決案を示したり助言したりして、合意を目指す。 合意が調書に書かれると、確定した審判と同じ効力を持ちます(家事事件手続法 第 268 条)。 まとまらないときは、調停を申し立てた時に審判の申立てがあったものとみなされます(同 第 272 条 4 項)。申立てのやり直しは要らない。審判では裁判官が、一切の事情を考えて決めます。
算定表は表 10〜19。双方の年収と子どもの人数・年齢で表を選ぶ
裁判所の家事事件Q&Aによると、婚姻費用の調停や審判では、目安として算定表が参照されることが多い。今使われている表は、東京と大阪の家庭裁判所の裁判官(当時)による研究報告で、2019 年(令和元年)12 月 23 日に公表されたものです。 それまでの表の考え方を引き継ぎ、もとになる統計を新しくしました。
婚姻費用の表は、表 10〜19。全部で 10 枚です。夫婦だけの表と、子ども 1〜3 人の表があり、子どもの年齢は 0〜14 歳と 15 歳以上の 2 つで分かれます。裁判所の説明書にある読み方は次の手順です。
- 子どもの人数と年齢に合う表を 1 枚選ぶ
- 縦の軸で、支払う側(義務者)の年収を探す
- 横の軸で、受け取る側(権利者)の年収を探す
- 2 本の線が交わる枠が、標準的な月額の目安
給与をもらっている人の年収は、源泉徴収票の「支払金額」、つまり控除される前の額です。給与明細だけだと、その月の額にすぎず、賞与が入っていないことに気をつけるよう説明書は書いています。 自営業の人は、確定申告書の「課税される所得金額」に、実際には出ていない控除(基礎控除や青色申告控除など)を足します。児童手当や児童扶養手当は、受け取る側の年収に入れません。
婚姻費用の表の枠には、1 万円から 2 万円の幅があります。説明書は、ふつうの範囲の事情はこの幅の中ですでに考えられていて、幅を超える額が要るのは、表どおりだと著しく不公平になる特別な事情がある場合に限られる、としています。表の額が、そのまま裁判所の決める額になるとは限りません。
請求の前に確かめる 4 項目
裁判所のページにある事情説明書(婚姻費用分担)の書式を開いた。設問は 6 つあり、大きく分けると 4 つ。申立てをするかどうか決める前に、答えられるかを確かめておくといい。 この書面は、相手から申請があれば閲覧やコピーをされることがある、と書式の冒頭に注意書きがあります。
1. 自分の収入と働き方を書けるか
書式は、職業と勤務の状況(正社員、パート・アルバイト、自営業、無職、失業中、休職中など)、税込みの年収、年金や失業保険などほかの収入を聞いています。 手元に要るのは、去年の源泉徴収票か確定申告書の写し。算定表の横の軸に当てるのも、この年収です。
2. 相手の収入を、分かる範囲で書けるか
相手の側の欄には「分かる範囲でご記入ください」とあります。相手の源泉徴収票や確定申告書の写しが家に残っていれば、算定表の縦の軸が読める。 分からなくても申立ては止まりません。調停では、双方から収入や支出の事情を聞き、必要なら資料を出してもらう、と裁判所は説明しています。
3. いっしょに暮らす家族と、子どものこと
同居している家族の名前・続柄・年齢と、自分が払っている学費・教育費・保育料を書く欄があります。ほかに養育費を払っている子がいれば、その子のことも書きます。どの算定表を使うかは、子どもの人数と、0〜14 歳か 15 歳以上かで決まる。 子どもへの伝え方や親権のことは、この記事では扱っていません。
4. 住まいと、いま誰が何を払っているか
住まいが持ち家か賃貸か、住宅ローンや家賃を誰が払っているか。相手の暮らしの費用のうち、自分が払っているもの(住宅ローン、水道光熱費、携帯電話料金、保険料など)。 別居したばかりだと、引き落としが前のままのことがあります。通帳と明細で、1 か月ぶんを書き出しておくのがいい。
書式の最後には、申立てのきっかけと、調停で対立しそうなことを書く欄があります。4 つがそろえば、話し合いで決めるにしても調停にするにしても、材料になります。
| いまの状況 | 考えられる道(裁判所の説明の範囲) |
|---|---|
| 夫婦で額と払い方を決められた | 決めたとおり払われるなら、裁判所の手続きは要らない。ただし家庭裁判所の履行勧告(支払いの勧告)は、調停や審判などで決めたものだけが対象 |
| 話し合いがまとまらない、話し合いができない | 婚姻費用の分担請求調停を申し立てる。不成立なら審判に移る |
| 離婚も話し合いたい | 離婚の調停(夫婦関係調整調停)は、婚姻費用とは別の手続き。下の節で比べた |
| どの手続きが使えるか分からない | 家庭裁判所の家事手続案内で、手続きの選び方と書類を聞ける |
離婚調停の相談 58 件。別居と婚姻費用の話題がいちばん多くいっしょに出てくる
当サイトの集計で、離婚調停の相談は 58 件。同じ相談の中でいっしょに出てくる話題を数えると、いちばん多いのが別居と婚姻費用でした。 別居と婚姻費用の相談の側から見ても、1 番目は弁護士への相談、2 番目が離婚調停です。離婚調停の相談でも、いちばん多い悩みは「費用や金額、相場のこと」。2 番目から下は、ほぼ並んでいます。
2 つの調停は、名前が似ています。でも別の手続き。裁判所の説明を並べると、違いは調停がまとまらなかったときに出ます。
| 婚姻費用の分担請求調停 | 夫婦関係調整調停(離婚) | |
|---|---|---|
| 何を話し合うか | 別居中の生活費の分担 | 離婚するか。親権、子との交流、養育費、財産分与、年金分割、慰謝料もいっしょに話し合える |
| 申立ての費用 | 収入印紙 1,200 円分と郵便切手 | 収入印紙 1,200 円分と郵便切手 |
| まとまらなかったら | 審判に移り、裁判官が決める | 審判には移らない。離婚を求めるなら、離婚訴訟(人事訴訟)を起こす |
どちらの調停でも、まとまらないときに、裁判所が事情を考えて調停に代わる審判を出すことがあります(調停手続一般)。2 週間以内に異議が出れば、その審判は効力を失う。表の「審判には移らない」は、離婚の調停が不成立で終わったときの扱いです。
離婚の裁判をするには、原則として先に調停を経る決まりです(家事事件Q&A)。 2 つの調停をどう組み合わせるか、どちらを先に出すかは、ご自分の事情で決まる。ここは弁護士に聞いて決める所です。
別居しない人、まだ決めない人へ
別居も離婚も、まだ決めなくていい。やり直す道もあります。同じ家で暮らしながら、続けるかどうかを考える人もいる。 裁判所の夫婦関係調整調停(円満)は、夫婦の仲を元に戻すための話し合いの場です。離婚したほうがよいか迷っているときにも使える、と裁判所は書いています。 申立ての時に離婚の意思が固まっている必要はなく、話し合いの中で、離婚の方向から円満の方向へ変えることもできる。
やり直す人の相談の並びは再構築(やり直す)の話題に、離婚するかどうかで迷っている人の相談は離婚するかどうかの話題にまとめました。 眠れない、食べられない、という状態が続くなら、心療内科や精神科、自治体の心の相談窓口へ。厚生労働省のまもろうよ こころに、電話と SNS の相談先が載っています。
迷ったときの行き先 3 つ
手続きそのものは、家庭裁判所の家事手続案内で聞けます。どの申立てをすればよいか、費用や添付書類は何か、を説明する窓口です。目安は 1 件 20 分以内。 ただし、慰謝料がいくらになるか、離婚したほうがよいか、という相談には応じないと裁判所は書いています。受付の時間は家庭裁判所ごとに違います。
ご自分の事情で請求が認められるか、額はどのくらいか。この判断は弁護士に聞く事柄です。 費用が心配なら、法テラスの無料法律相談があります。収入と資産が基準以下の人が対象で、1 回 30 分、同じ問題で 3 回まで。離婚など配偶者が相手になる件では、配偶者の収入を合わせず、本人の収入と資産だけで見ます。別居して収入が少ない人は、先に基準を確かめてください。 弁護士に何を聞くかは弁護士に相談するかの話題にまとめています。